第1章 パーソナリティ障害
総論
ポイント
・パーソナリティ障害は思考と感情、行動の硬直した持続的なパターンである。
・ある環境条件が与えられたとき、思考と感情、行動について、患者の示すパターンと周囲の人
が予想するパターンが異なっている。
・始まりは思春期か成人初期である。
・パーソナリティ障害は機能障害に至り不適応を呈する。
パーソナリティ障害患者は自分の不適応行動に関して不安を感じない。
——-Kaplan and Sadock’s Synopsis of Psychiatry
パーソナリティ障害の人々は世界についての考え方と感じ方がある方式で固まってしまっている
。その考え方と感じ方は自分と他人を不幸にする。
彼らは自分の行動に問題があるとは考えないので、概して自分を変える動機がない。
多くの精神療法家は、パーソナリティ障害を理解しているので、これらの患者にあまり変化を期
待しない。
精神科医はうつ病、シゾフレニー、その他のDSMのⅠ軸診断の疾患に対してはずっと楽観的で
ある。
さらに治療への勇気をくじくよくない知らせだが、パーソナリティ障害はすべて遺伝因子が関与
しているというエビデンスがある。
家族歴はスキゾタイパル、境界性パーソナリティ障害、その他のパーソナリティ障害が遺伝的な
ものであることを明らかにする。
遺伝因子に対して環境因子を言うならば、もちろん、環境が関与して妄想性パーソナリティ障害
や他の防衛を強化している。
分類
現在、10種のパーソナリティ障害、1種の総合カテゴリー、さらに研究が必要な2つの診断基準セ
ットが特定されている。
1.妄想性パーソナリティ障害。不信と疑惑のパターン。他人は悪意を持っているとみなす。
2.シゾイド(スキゾイド)・パーソナリティ障害。他人と距離を取るパターン。狭い感情変化。
3.シゾタイパル(スキゾタイパル)・パーソナリティ障害。対人関係が非常に不快なパターン。思考
と認知の歪み。
4.反社会的パーソナリティ障害。他人の権利を侵害するパターン。
5.境界性パーソナリティ障害。自己が不安定で他人を操作するパターン。
6.演技性パーソナリティ障害。過剰な感情と注目を求めるパターン。
7.自己愛性パーソナリティ障害。誇大性、共感欠如、賞賛要求のパターン。
8.回避性パーソナリティ障害。否定的評価を恐れるがゆえに社会的に引きこもるパターン。
9.依存性パーソナリティ障害。しがみつく程度にまで世話されることを要求するパターン。
10.強迫性パーソナリティ障害。コントロール感と完全性に過剰にこだわるパターン。
11.受動攻撃性パーソナリティ障害。さらに研究が必要。否定的態度と受動的抵抗から構成される
パターン。
12.自己敗北的パーソナリティ障害。さらに研究が必要。自分の利益に反する行動を取るパターン
。
13.特定不能のパーソナリティ障害。どれにもぴったりしないくずかご診断。
———-キーポイント
すべてのパーソナリティ障害はⅡ軸の診断である。パーソナリティ障害患者がどのような臨床症
状(Ⅰ軸)を呈しているか注意すること。————
診断をより簡単にするためにパーソナリティ障害は3群に分類されている。
・クラスターA(奇妙な群)
妄想性
シゾイド(シゾイド)
シゾタイパル(スキゾイド)
・クラスターB(劇的な群)
反社会性
境界性
演技性
自己愛性
・クラスターC(不安な群)
回避性
依存性
強迫性
———-キーポイント
パーソナリティ傾向はパーソナリティ障害ではない。パーソナリティ傾向は正常範囲であり、環
境に適応したパターンである。孤立したり苦痛になった時にのみ病気と呼ぶ。———-
———-症例スケッチ
37歳の弁護士がはじめて私を訪れた。床まで届くカーテンが閉じられていたのに、彼女は窓から
遠く離れた椅子を選んで座った。
私が面接を始める前に、彼女をどう呼ぶかについて彼女は厳格なルールを要求した。ファース
トネームで呼んではならず、Mrs.Xと呼ばなければならないという。面接の後で私のノートのコピ
ーを即座に要求した。また彼女の用意した書類にサインするように求められた。そこには私が彼
女についての情報を他の治療者や保険会社に漏らさないことと指示されていた。
私は彼女の希望に従ったが、すぐに考えたのは、彼女の診断の一部はパーソナリティ障害のひと
つだろうということだった。
Mrs.Xは柔軟性がなかったので、面接を可能な限りコントロールしようとした。この不適応パター
ンは成人初期に始まっていた。すべての人間に対する広汎性の疑惑があるのでみんな彼女から遠
ざかった。彼女はその反応を見て、他人は自分に悪意を抱いていると信じた。診察の前に、私が
彼女を裏切り、傷つけるだろうと想定した。私の診断はⅡ軸として妄想性パーソナリティ障害、
Ⅰ軸として大うつ病だった。
パーソナリティ障害の持続する思考、感情、行動のパターンは、幅広い状況に及び、苦痛をもた
らし、対人関係障害を呈する。またパーソナリティ障害の診断をする時は、注意深く物質乱用と
身体的疾患を除外しなければならない。どちらもパーソナリティ障害と紛らわしいことがある。—
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こんな具合に総論を展開することがいいことかどうか疑問がある。
総論としては共通事項を抜き出して、個々のパーソナリティ障害の定義よりも一段上の定義を示
したいわけだが、もともとがそういう始まりではないものなのだから無理があると思う。
しかし、それはパーソナリティの問題ですねと共通して認識できるわけだし、パーソナリティ傾
向とパーソナリティ障害もおおむねは区別できるのだから、漠然と上位概念があるのだろうとは
思う。
多分、クジラを魚と分類しているようなことがあるのだろうとは思う。
海の中にいて泳いでいるものとする認識と哺乳類という認識とは次元が違う。
クジラを魚ではないと言うのもまた不具合な話で、水の中の生き物で、漁師が捕獲するもの、と
いう意味で、クジラも魚としてもいいのだろうとは思う。
クジラを魚と認識して何か実際上の不都合があるだろうか?多分ない。
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