第9章 依存性パーソナリティ障害(DPD)
ポイント
・自分で決断できない
・支えと指導が必要。自分でできるとは感じない。
・他人の意見に反対できない。一人で何かするのは怖い。
・自分でしなさいと一人で置かれるのが怖い。その時は誰か世話してくれる人を探す。
一人になると見放されたように感じる。助けなしで自分一人では何もできないと思っている。
—–E.Fromm
依存性パーソナリティ障害(DPD)の人々は他者に過剰に依存する。
彼らが知的に高度であり才能に恵まれているとしても、自己評価があまりに低く、周囲にいる強
い人に必死にしがみつこうとする。
彼らは従順で受動的な様子に見える。
彼らは虐待的な行為にも耐えることができるので重要な他者との関係を維持することができる。
「お世話係」はDPD患者にどのシャツを着なさいとか、どの人と付き合いなさい、どの学校に行
きなさいなどと指示する。もしDPD患者が知的発達障害があったり認知症があったりするなら、
そのような依存的な行動も理解できるが、知的に正常または高度な人なのに、他者にそのように
依存することは、理解しにくく思われる。
しばしばDPD患者は悲観的で自責的である。一方で、「お世話係」を楽観的な人と見たり、すべ
ての肯定的な徳を備えているとみなしたりする。
キーポイント
DPD患者は他者との関係を続けようとして極端に行き過ぎることがある。
ときには彼らは他者との関係を維持しようとして非倫理的で不道徳な行為をすることもある。
彼らは責任を取らないので、何かがうまくいかないと自分が依存しているその人のせいにする。
治療にあたっては、彼らの自己評価を高めるように配慮し、自分で考えて行動できることを証明
してみせるのがよい。
しかしこれが難しいのは、彼らは常に自分にダメ出しをして他人を高く見ていることが原因で
ある。
毎日何を着て何を食べるかを自分で決めて良いのだと自分に許可を出すことを、医師が補助する
、そのような小さなことの積み重ねが、自信につながる。
症例スケッチ
ギニーは36歳のTV局のアシスタント・ディレクター。彼女としばらく時間を過ごしたあとでたい
ていの人が気づくのだが、ギニーは上司の過剰なくらいの指示がなければ些細な事も決められ
ない。彼は52歳、力強くカリスマ性があり、上席プロデューサーでギニーとは正反対だった。
母親が死んだ後、ギニーは依存の対象を上司に切り替えた。以前は母親になんでも任せていたの
で結婚はしなかったし母親のアドバイスなしには何も決められなかった。同じ役割りを上司に期
待し、彼女は上司のアドバイスが聞こえる範囲にいて色々と励ましてもらわないと何もできない
ようになった。ある日、夜遅くなった時、二人はベッドルームのスタジオセットにいたのだが、
そのベッドで愛しあった。そのあと上司は彼女と距離をとって疑惑を避けようとした。不幸なこ
とにギニーは上司がいつもそばにいるという安心感を失って支えを失ったような気がした。彼の
細かな指示がなければ仕事がうまくできなかった。
ディスカッション
この時点でギニーは精神科医に診察を求めればよかった。彼女はDPDと診断されただろう。治療
の中で昔ギニーが母親や上司を頼ったように精神科医を頼って良いことにしただろう。そして精
神科医は彼女が独立するように育てるのである。例えば、「でも先生、私はどうすればいいの?
」とギニーが聞いたら、「どうすればベストだと自分では思うの?」と質問の形で返し、直接は
指示しないようにする。ギニーは最初は自分のアドバイスに自信がないが、何度も励まされて、
彼女は肯定的な自己評価ができるようになり、独立していくようになる。
依存的行動は年齢や社会文化的集団のコンテクストの中で考える必用がある。たとえば、ギニー
が幼い子供であったり、いくつもの障害を抱えた高齢者であったりすれば、依存的であることは
普通のことである。36歳で、身体が健康で、中流のアメリカ家庭であれば、ギニーの依存性は過
剰であり、病理的である。
DPDは気分障害やパニック障害の結果としての依存性、また身体病の結果としての依存性とは鑑
別する必要がある。もしギニーのようにDPDで見捨てられることを恐れている人がいたら、自分
が依存している人に気に入ってもらえるように熱心に努力するだろう。
残念なことに、ギニーは治療を求めず、最終的には対立する側のアシスタントディレクターによ
って冷遇された。降格されて給料も下げられた。上司は関係を続けなかったので彼女は無意識の
うちに別の依存できる権威的な対象を求めた。
キーポイント
DPDは子供時代に分離体験をした人に発生する。
DPDは最初は精神分析家によって「口唇性格」として記述された。その特徴は、依存性、悲観的
、受動的、被暗示性、忍耐力欠如である。
1924年にKarl Abrahamは仮説を立て、授乳期に甘やかされると口唇性格が依存性を発達させると
した。しかし現在の発達理論では否定されている。
子供時代に離別体験をして、適切な世話をされなかった人は、世話されることを過剰に求め、一
人になると寄る辺なく感じる。彼らの恐れは、自分で自分を世話できないこと、そして人生の最
初の世話役が失敗したのと同じように失敗するだろうということである。
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次の8つのうち5つ以上あてはまると依存性人格障害が疑われる
- 普段のことを決めるにも、他人からの執拗なまでのアドバイスがないとダメである。
- 自分の生活でほとんどの領域で他人に責任をとってもらわないといけない。
- 嫌われたり避けられたりするのが怖いため、他人の意見に反対することができない。
- 自分自身から何かを計画したりやったりすることができない。
- 他人からの愛情をえるために嫌なことまで自分から進んでやる。
- 自分自身では何もできないと思っているため、ちょっとでも1人になると不安になる。
- 親密な関係が途切れたとき、自分をかまってくれる相手を必死に捜す。
- 自分が世話をされず、見捨てられるのではないかと言う恐怖に異常におびえている。
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「しばしばDPD患者は悲観的で自責的である。一方で、「お世話係」を楽観的な人と見たり、す
べての肯定的な徳を備えているとみなしたりする。」
この部分はprojectと表現していて、お世話係はそうであるべきだというファンタジーを押し
付けているので、ここである程度psychoticな要素が混入する。
防衛機制の種類としてpsychoticである。
また自分の能力を低く見るという点でreality testing が低下しているので、その点でもpsychoticで
ある。
自我の内部で『悲観的自責的』の部分と『肯定的理想的』の部分が分離して、
『悲観的自責的』の部分は自分に向けられ、
『肯定的理想的』の部分は世話役に投影される。
これを統合することを考えると、容易に性的結合にも至る。
肯定的理想的な対象が現実に肯定的理想的であればそれは
psychoticと区別することは難しいが
一致は偶然に近く、本質はpsychoticである
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