第8章 回避性パーソナリティ障害(APD)
ポイント
・回避性パーソナリティ障害(Avoidant personality disorder:APD)患者は他者との交流を恐れて
いる。
・APD患者は人々が自分を非難し拒絶するだろうと信じている。
・彼らは劣等感と悩んでいる。自分は社会に適さないと思っている。
・仕事、人々、新しい状況を回避する。
一体なぜ彼は私に話したがるの?
—–Laura Wingfield in ガラスの動物園by Tennesse Williams
回避性パーソナリティ障害(APD)の患者は、他の人が自分を嫌っていると確信している。なにし
ろAPD患者はそもそも自分のことをダメだと思っているからである。
彼らはいつも人々が自分を批判して拒絶すると思い込んで悩んでいるので学業成績や仕事の業績
は思わしくない。
彼らは環境に対して過剰警戒していて、他者の反応をチェックしている。人々が非常に支持的で
養育的である場合を除いて、自分はいつでも人に拒絶されると予想している。
APD患者を扱うベストの方法はできるだけ彼らを肯定して自信を付けさせることである。
彼らは数多くの面接の後にやっとあなたを信頼するようになる。それまであなたは彼らに肯定的
関心を向け、表明し続けるべきだ。
不幸なことに、彼らは拒絶されると思い込んでいるので、治療の最初には面接を回避するだろう
。
キーポイント
APD患者は、無条件に受容されたと感じた場合、その人と親密になるだろう。
APD患者は拒絶に過敏になっているので人々との交わりを回避する。シゾタイパルやシゾイドの
患者と異なり、APDでは対人関係能力はもっとある。しかし彼らがあまりに怖がるので人々は彼
らを嘲笑する。人々は彼らを恥ずかしがりで控えめだと思う。職場では、指導的な立場にはめっ
たにならず、能力よりもずっと低い場所で働く。医師が最初に診察するときには彼らは不安が強
く自分について話すことさえ困難である。人口の1-10%程度と考えられている。文化や民族が異な
れば回避的または内気と見えても、文化的に適切なこともある。従って診断にあたっては文化的
側面を慎重に考慮すべきだ。
症例スケッチ
コリーヌは劇場で働いているが、10年もの間、小道具係として舞台裏で働いて満足なのか、同僚
には不思議だった。同僚の多くは役者を夢見ているが切符売り場か舞台裏で働いていた。一度舞
台のテーブルにティーポットを置くためにステージを横切ったことがあった。コリーヌはスポッ
トライトに照らされて気を失いそうになった。彼女は高校を卒業してすぐに父親の紹介でこの職
に就いた。大学に進もうと思って数ヶ月行ったのだが、クラスメートが怖かったし、宿題を忘
れて、ついていけなくなった。新しいステージマネージャーが雇われた。彼は彼はハンサムで
マナーが良かった。コリーヌは必死に彼を避けた。他の女性達は彼に言い寄ったりしていた。彼
はコリーヌのことが好きで話しかけたいようだった。毎日彼女は彼のことを考えたが、自分は醜
いので諦めようと決心していた。ついに彼女は勇気をふるって彼に話しかけようと思ったが、
ステージに置くように言われていたラジオを手から落としてしまった。彼女はステージマネ
ージャーに怒られるような気がした。その後は二度と彼に近づかないようにした。
ディスカッション
拒絶されるリスクをおかすくらいなら孤独のほうがいい、それほどまでに拒絶を恐れるのがAPD
患者である。
小道具係というコリーヌの仕事はAPDの人にとってうってつけである。
彼女は舞台裏にいればいいし、他人との接触回避も容易である。コリーヌは子供時代から怖がり
で孤独だった。思春期には仲間から離れて過ごした。大学を卒業できなかったのは病気のせいで
ある。多くの場合APD患者は結婚して子供を育てるが、それは配偶者の保護と支えがあるからで
ある。
APDの治療には個人精神療法と集団精神療法がある。個人精神療法では、治療者は受容的態度を
維持して固い治療同盟を発展させるべきである。
コリーヌのケースでも分かるように、ほんのわずかの怒りでも非難と拒絶と解釈されることが
ある。彼女は治療を受けなかった。母親は彼女にデートするように勧めたが、コリーヌは怖さを
どうにもできなかった。
キーポイント
APD患者には、世界が彼らを侮辱して拒絶していると見えるのだが、その世界を耐え忍ぶように
学ぶ必要がある。
集団療法は、もしAPD患者を「集団の中に入ってもいい」と説得できたらの話だが、自分が他人
にどう見られているかを理解する良い機会になる。
第一に、人々が彼らにOKだよ、劣ってなどいませんよと告げた時に、彼らはそれが信じられない
。もし彼らがその集団に充分長く居られたら、そしてそこで聞いたことを信じられるなら、彼ら
は勇気づけられて、この世界は親しみやすい場所であって、参加してもいいと思うようになる。
薬剤はしばしば用いられ、SSRI、βブロッカー、ベンゾジアゼピンなどが使用される。βブロッカ
ーは交感神経の過剰活動を抑制する。APD患者ではGABAレセプターに異常があると言われている
のだが、ベンゾジアゼピンはGABAレセプターを調整する。
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以下の7つのうち4つ以上があてはまると回避性パーソナリティ障害が疑われます。
- 他人からの批判、拒否、拒絶をあまりにも恐れるために、仕事上大切な人と会わなければな
らないような状況を避ける。 - 好かれていると確信できなければ、人と関係を持ちたいと思わない。
- 恥をかかされること、バカにされることを恐れるために、親密な間柄でも遠慮がちである。
- 社会的状況の中では、批判されはしないだろうか、拒絶されはしないだろうかとこころを奪
われる。 - 自分が人とうまくつきあえないと感じるため、新しい人間関係を築けない。
- 自分は社会的に不適切な人間で、長所がなく、人より劣っていると思っている。
- 恥ずかしいことになるかも知れないと言う理由で、何かにチャレンジしたり、新しいことを
はじめたりすることに異常なほど消極的である。
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ICDではAvoidant personality disorderはAnxious personality disorder 不安性人格障害とも表現され
ている。
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